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「せんぱぁい!新しい依頼ですぅ!」
ドタバタ足を鳴らしながら錆び付いてギィギィ煩いドアを思いきり開いたのは明間ユリ子。砂ぼこりがむぁっと広がってやがて消えた。
「ユリ子ちゃんこんにちはー」
「こんにちは!先輩、どこですか?」
「こっちこっちー」
声のする方に一歩足を踏み込む。積まれた本は明間の背丈を優に越え、至る所には蜘蛛の巣やよくわからない虫の集まり。しまいには床が抜けているところもあり、今すぐ取り壊して新しく建て直した方が身のためであるこの場所に、明間はなんの躊躇もなく入っていった。
「あ、先輩!今日はダニの住み所みたいなソファの上で日向ぼっこですか!」
「そんな言い方されると萎えちゃうな…」
日当たりの良い窓の元で、先輩と呼ばれる男がウォークマンを弄りながら苦笑いをした。
「んで、どしたの?依頼ですぅとか言ってたけど」
「依頼ですよ依頼!二年一組のなっちゃんが代わりに好きな人にラブレターを渡して欲しいんですって!」
「まぁたラブレター?今月入って何回目よ。だいたい女子はなんで他の人に…」
「とにかく!お願いしましたよ!私今日用事あるんで帰ります!」
「えっ、ちょ…ユリ子ちゃん!」
先程と同様、ドタバタと騒がしくして出ていった。代わりに舞い上がった埃に、マスクを付けて眉間に皺を寄せ手で払う。渡された手紙。一つ溜め息をついた。
「男から男に渡すと誤解受けるんだって…」
淡いピンクの封を裏表にしながら見る。差出人も宛先人も不明のそれは、女の子らしい封筒でなければ果たし状のようにも思える。まぁさっさと渡して帰るか。…というところで気付いた。なっちゃんって誰だ。ごくナチュラルに押し付けられたが、なっちゃんなど知らぬ。
「宛先人もわからないよ…」
「ちわーす」
「ッうぇい!」
「は?きも」
「佐々木くん…。君は相変わらず気配消しのプロだね…」
バクバク鳴り響く心臓を押さえて振り向く。だるそうに片紐だけ掛けられた指定のバッグ、第3まで開いたボタン。髪はワックスでガッチガチだし、オマケにピアスと腰パン。まさに見た人誰もがヤンキーだの不良だの口を揃えて言うような、そんな奴がまさに汚物を見るような目で見ていた。
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