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「…君は先輩を敬おうっていう気持ちはないの?」
「敬うもなにも…アンタ1年留年してるじゃないっすか。そんな奴敬えますか」
「僕なら馬鹿にする」
「俺もっす」
床に鞄を放り投げてパイプ椅子に乱暴に座る。なんていうかいちいち乱暴にするのやめてほしい。この埃をだな、ごらんになって?体に悪いって。
「確かに僕は留年したけれどもだね、三年生なわけよ。君二年生でしょ?俺2歳年上なの。まともに生きてたら大学一年生だよ?わかる?」
「アンタが馬鹿ってことなら」
「うーん、ごもっとも」
なにも好き好んで留年したわけじゃない。学校サボりまくったら出席日数みたいなのが足りなくなって留年になった。
「あ、ていうか佐々木くん。なっちゃん知らない?」
「はぁ?」
「佐々木くんて二年一組だったよな。なっちゃんっていう女の子、同じクラスでしょ?」
「あー…なんかいたな、そんな奴。でもアイツ大人しそうに見えて実は男タラシっすよ。好きならやめた方がいいんじゃないすか」
「うん…って違うよ!そのなっちゃんからラブレター届けてくれって依頼!」
「へぇー頑張って」
携帯…っていうかiPhone?スマホ?よくわからないがそれを取り出して弄りはじめる。まったくこの後輩は…!
「とりあえず行ってくるから、俺のフダ引っくり返してユリ子ちゃんのは下に下げといて」
「うーす」
わざわざホワイトボードの所に行ってまで説明したのにこいつは。まったく最近の若者は携帯だのゲームだの!人の話はちゃんと聞くべきだ!
ボードに書かれた曜日の、火曜の下に『武井純 なっちゃんところ』と書き込んでラブレターをベージュのショルダーバッグに入れて、軋む床を踏み締めながら部室を出る。ドアを閉める瞬間に「掃除しといて!」と叫ぶと珍しく大きな声で「嫌っす!」という返事が返ってきた。似非ヤンキーめ。
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