名物司令

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…今日も日差しがキツいな。  比島の異常なまでの暑さが陸上の魚の様な私達、陸戦隊員から生気を奪っていく。  ここ比島は一年中温暖湿潤な気候に恵まれ、作物を作るのにはもってこいの場所ではあったが、気温は四〇度を超え、マラリアが蔓延するこの地は、どうやら人間が住むには甚だ向かない所のようであった。  そんな私は暑さに耐えきれず、空襲でもないのに防空壕に逃げ込んでいた。中は風が通り抜け、思っていたよりも快適であった。  しばらく休んでいると、向かいの通信隊の幕舎から今週の当番兵である西田兵曹長がこちらを見て、何か叫んでいる。 「五十嵐大尉!陸戦隊本部からお電話です、なんでも急ぎだそうです!」 と、言いながら受話器をブンブン振っている。  嫌々防空壕を出て、西田から受話器を受け取ると電話の主は、私をノイローゼになるまでこき使い、恐ろしい任務にもまるでピクニックに行くのかのように振る舞う人物であった。  彼はあの独特な抑揚のある声で話始めた。 「おー五十嵐、あのな…」  私は彼の副官として、ウェーク上陸を始めとして、ソロモン、ガダルカナルなど有りとあらゆる戦場を駆け巡り、幾多もの死線を超えてきた。  そして、海軍の花形兵科ではないにも関わらず、任務遂行の正確さから大田八連特司令に「パーフェクトネイビー」と渾名された程であった。  そう、彼こそが私が海軍の中で最も苦手な上に、私の陸戦隊司令でもある、常盤平尽一中佐だ。  そんな彼から急ぎの電話とは私は嫌な予感しかしなかった。 「でな、これから至急任務を言い渡すから、今すぐ陸戦隊本部に来いや。んな後でな」  やっぱり…まさに私の予感は的中した。 私は通信隊幕舎に車を呼び、隣島の陸戦隊本部に向かうため桟橋へ向かった。
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