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「すー……すこー……」
おばちゃんの立てている静かな寝息が、次第にいびきに変わる。
他の乗客の視線を一気に集めたが、彼女は動じていないようだ。
「ずごー……ぐおぉー……」
おばちゃんのいびきが激しくなるにつれ、近くの乗客から徐々に広がり、かなり離れた場所にいる乗客までもが覗き見ている。
彼女の左隣で気持ち良さそうに眠っていた中年おやじは、その豪快ないびきに起こされたようだ。
寝起きで真っ赤に充血した目をしぱしぱさせると、眉間にしわを寄せたおやじは苛立った様子で、眠りの妨げとなった元凶を探す。
隣に座っている彼女を見越して奥を覗き、元凶がおばちゃんであると確信したおやじは、対象が気に食わないのか更に眉間にしわを寄せると、一つ咳払いをした。
恐らく、咳払いをすることで目を覚まさせ、静かにさせようという魂胆なのだろうが、何度やってもおばちゃんは起きやしない。
周りにとってはおばちゃんのいびきも、中年おやじの咳払いも、同じ程度の煩わしさであるが。
片やいびき、片や咳払い。
両隣から迷惑行為を受けている彼女だが、眉一つ動かさない。
何とまぁ……天晴れである。
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