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行きは全く顔を合わせないが、帰りは電車の時間も駅も同じ。
運命であると信じたくなる。
駅から少し離れると、街灯が少ないせいか、途端に暗くなる。
月明かりを頼りに帰宅するのだが、俺の場合、彼女のサラ艶ストレートの髪を見ながらの帰宅だ。
歩き方も綺麗な彼女は、カツカツと一定のリズムで靴を鳴らす。
電車では咳一つしない為、彼女の声を一度も聞いたことがない。
静かな道に心地好く響く靴の音が、彼女から発する唯一の音。
聞き慣れた、彼女の音。
「あの──」
澄んだ音が聞こえた。
……いや、違う。
彼女の“声”だ。
いつもは髪を揺らしながらただ歩いているのだが、今日はなぜか立ち止まり、振り返っている。
俺に話しかけたものかは分からないけれど、正面には彼女の顔。
確実に、視線が交わっていた。
改めて思うが、やはり美人。
ただ今は、そんなことを思っている場合ではない。周りを見ても誰もいないし、彼女と目も合っている。俺は急いで返事をした。
「──はい?」
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