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この時期は本当に嫌いだ。
イノセンスの騎士の長、ヴァルこと、ヴァレンタイン・フォードは重いため息をついた。
この時期は男女ともに舞い上がっていて、嫌気がさすものだ。そして男女ともにヴァルにまとわりついてくる。
「フォード様」
教会と関わりの深いイノセンスにはシスターもいる。その見習いシスターが、赤らめた顔でこちらを見ていた。
普通の男ならば、甘酸っぱい期待を胸に、彼女を見ることだろう。しかしヴァルには違う先が、すでに見えていた。
なぜなら彼女は……
「成功するようにお言葉をくださいませ!」
来る14日の名を持つヴァルに神頼みに近いことをしようとしているのだから。
ヴァルの名前は彼の親が願いを込めてつけたのであって、決してこんな言葉を授けさせるためではない。何より、言葉を授けたところで成就するとは限らないのだ。
しかし少しでも願いを叶えたい男女たちはヴァルの名にあやかろうと、彼に言葉を求めてくる。
今日何度目かの、顔の筋肉の強ばりを感じる。
「見習いから早く抜けたいなら、恋を諦めることだ」
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