侍女と色男

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 堂々とカツラと言っていた。  では、あのカツラの下の髪は何色? 「椿太夫、先ほどの方はいらっしゃいますか?」 「いえ、お帰りになりんした」 「そうですか……」  もしあの一族の者だったなら、連れに本名を教えていないだろう。偽名なんて大した手がかりにもならない。  大切な主に何もなければそれでいい。波風を立てる必要はないだろう。金の色味が、見間違いであればと思いながらイレーヌは立ち上がった。      ‥†*†‥ 「良い月夜だな」  手酌は寂しいものだが、狼娘に尋問などされたくなかった。だから木の上に登ったまま一人で月見酒を楽しむ。  ちらりと通りの宿を見ると明かりが消えていた。  寝たのか? 「待って!ジョー」  男装した二人の女性が通りにいる。  ああ、あの娘だ。  トップハットを押さえながら、とても男装には見えない男装をして、前にいる女性を追いかける。  そして見事に小石に足を引っかけた。  小石につまずいた彼女を助け起こす男を見て、不意に酒の手が止まった。
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