207人が本棚に入れています
本棚に追加
堂々とカツラと言っていた。
では、あのカツラの下の髪は何色?
「椿太夫、先ほどの方はいらっしゃいますか?」
「いえ、お帰りになりんした」
「そうですか……」
もしあの一族の者だったなら、連れに本名を教えていないだろう。偽名なんて大した手がかりにもならない。
大切な主に何もなければそれでいい。波風を立てる必要はないだろう。金の色味が、見間違いであればと思いながらイレーヌは立ち上がった。
‥†*†‥
「良い月夜だな」
手酌は寂しいものだが、狼娘に尋問などされたくなかった。だから木の上に登ったまま一人で月見酒を楽しむ。
ちらりと通りの宿を見ると明かりが消えていた。
寝たのか?
「待って!ジョー」
男装した二人の女性が通りにいる。
ああ、あの娘だ。
トップハットを押さえながら、とても男装には見えない男装をして、前にいる女性を追いかける。
そして見事に小石に足を引っかけた。
小石につまずいた彼女を助け起こす男を見て、不意に酒の手が止まった。
最初のコメントを投稿しよう!