ある女侯爵の追想

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「お帰りなさいませ、ジョージアナ様」 「ただいま」  いつも笑って出迎えてくれる執事に、笑みを返し、差し出された腕に、外套と帽子を渡す。  今日は寒い日だ。  息を吐き出すだけで、白く凍りそうな朝に、ジョージアナは教会へ行った。何年ぶりだっただろう?  そういえば結婚式をのぞいて、“あの日”から行ってなかったのか。だいぶ罰当たりなことしてたなぁ。  そんなことを思いながら、大して罰当たりだとも思っていないのが実のところだ。  書斎に入って、そのまま机に向かったが、何となく考えてしまう。  “あの日”のことを。   本棚に置かれている母の日記に、自然と手が伸びた。      ‥†*†‥  ずっと前から母は自分を見てはくれなかった。それがなぜかは分からない。ただ声をかけても、いい子になっても名前を呼んではもらえなかった。  父は居なかった。小さい頃死にかけた自分を助けて父は死んだのだ。  もしかしたら母はそれを恨んでるのかもしれない。そしたらもう自分に出来ることはないのだと、なんとなく思った。
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