ある女侯爵の追想

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 美しく、生真面目で、厳しい母。  母の瞳は自分と同じ色ではない。母の瞳はブラックウッド家の紫水晶だ。母の母、つまりジョージアナの祖母はブラックウッド家の令嬢だったのでその色が受け継がれた。  閉じていたまぶたを薄く開き、ジョージアナの姿を確認すると、御者に向かって一言「出して」とだけ言った。  会話はやっぱり無かった。  冷たい視線や言葉があればまだいいのかもしれない。少なくとも存在を認められていることのなるのだから。声もかけられない、今のように時折確認されるがそれも少ない。  馬車が止まると、母は無言で降りた。 「やぁ、シャーロット」  にこやかに笑い、帽子を小さく上げるのはヴィンセント・ブラックウッド公爵。 「ああ、ヴィンセントか」 「私の顔を見るなり、嫌そうな顔をしないでくれないか」 「そんなことはない」 「そんなことあるさ。こんばんはジョージアナ、君の母上は相変わらず私に無愛想じゃない?」  どう答えて良いか分からない質問を投げかけられ、戸惑っていると母が口を開いた。
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