ある女侯爵の追想

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 すぐに気を取り直したヴィンセントは軽口を叩き、ジョージアナとつないだ手を持ち上げる。 「おまえはいつから幼女趣味になったんだ」 「そういうこと真顔で言うの止めようね」  大人たちの本気なのか嘘なのか分からないやりとりに、間に挟まれたジョージアナは少しいたたまれない。  教会のそばには夜でも市場〔マーケット〕があって、人で賑わっている。年々増えていく人数にヴィンセントはほっとしているらしい。  以前は市場さえも行われていなかった。戦争に疲れた人々は賑わうことを忘れ、ただ日々を必死に生きていた。  母は領民や屋敷に来た物乞いにさえも食べ物や衣類を与えて、家の家計をギリギリまで切り詰めるようにと命じていたのをよく見ていた。切り詰めて出てきた金貨を使い少しでも領民の生活を楽にしようとしたし、国王に謁見の間で領民に対してもっと食料を行き渡らせるように臆することなく頼んだことも聞いている。  しかしこれも休戦中の話。戦争中はいったいどうだったのだろう?生まれていない自分にはその苦しみを文献でしか見ることが出来ない。
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