ある女侯爵の追想

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 母も悪の貴族たちの一人であるが故に戦争に出た。女でありながらも騎士として働いたらしい。しかしすぐにジョージアナを妊娠したことが分かって前線には出なくなった。しかし彼女は国に帰ろうとせず、母は戦場でジョージアナを産み落とした。  どんな話を聞いても、母が強い人なのだとしか思わなかった。 「奥方が悲しむぞ、おまえが幼女趣味だなんて知ったら」 「幼女趣味ではないからね。エセルは君がまだ名前で呼んでくれないと知った方が悲しむと思うけど」 「まさか」  相手にしないと言わんばかりに母はそっぽを向いた。しかしそのまま動かない。ただ市場の一点だけを見つめて目を見開いていた。 「シャーロット?」  ヴィンセントの声も耳に入らないのか、突発的に駆け出した。  母は早かった。  まるで何かに憑かれたようにただ走る。 「ジョージアナ、つかまって」  幼い子供の足になどすぐに追いついたヴィンセントはジョージアナを抱き上げてシャーロットの背を追う。
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