ある女侯爵の追想

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 たどり着いたのは賭博場だった。母の外套からわずかにのぞいた赤いドレスと金髪が躊躇〔まよ〕わずに入っていったのを見たのだ。  中はタバコの匂いで充満していて、カードやルーレットの音で溢れている。母はちょうど階段を駆け上がっていた。外套は預けたらしく、赤いドレスがはっきりと視界に映り込む。  追いかけるとそこは三階。扉の閉まる音と鍵のガチャリという音が騒がしい空間でも大きく響いた。 「賭事をすることも極力控えなきゃいけないから、シャーロットは少し罰を受けることになるな」  悪の貴族たちには様々な決まりがある。どんな些細なことにも気をつけなければすぐに首と胴体が切り離されてしまう。  悪の貴族たちは、人を殺す権限を持つ変わりに、小さな違法を手放しているのだ。  賭博は犯罪に繋がりやすく、裏社会では賭事に女性が使われたり、臓器などが賭けられる。普通の人ならば街中の高級賭博場で賭ける分には問題ないのだが、悪の貴族たちは良しとはしない。  鍵をかけられたので入ることの出来ない二人はドアに耳をつけて盗み聞きをしようとする。あまり人には見られたくない状況だ。
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