ある女侯爵の追想

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「盗み聞きって違反だったような……」 「君はシャーロットの跡継ぎだけど正式に悪の貴族たちには入ってない。私はその見張りさ」  無理矢理すぎないだろうか? 「………を賭ける。ラ……ンをここに」  何を賭けるのか、そのために何を呼んでいるのか、うまく聞き取ることが出来なかった。  しかしその心配も必要なくなる。中から動物のうなり声がした。直後迫力のある咆吼が聞こえ、体のうちやそばにあった陶器の壺を震わせる。 「ライオンか」 「お母さんまさか……」 「私の命を賭けるとでも言ったんだろう」  隣で盗み聞きをするヴィンセントは厳しい表情だ。  母が何かを指定する声と、相手の声。相手はおそらく男でとても動揺している。母の声が余計に落ち着いて聞こえた。  ずっとそんな声ばかりが続いていたのに、突然それがぷつりと途切れた。静まり返った空間にガシャンと壊れる音が響く。  ライオンの咆吼が轟いた。  中から「助けてくれ!今すぐ警察を寄越せ!」と叫ぶ声が聞こえる。 「お母さん、お母さん!」
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