ある女侯爵の追想

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 ジョージアナの拳で殴られた扉は音を立てるだけで開いてはくれず、無情にも跳ね返す。  すぐにたくさんの足音が聞こえて、警察が階段を駆け上がってきたのだとわかった。  ジョージアナはヴィンセントに引き寄せられ、扉から嫌でも離れる。勝てるわけもないが、ヴィンセントの腕の中で暴れた。 「行くの!」  ただ母が心配で、怖くてたまらなかった。もしかしたら賭けに負けて、自らライオンの檻に餌として入っていったんじゃないかと思いもする。でも、警察が扉を蹴破ってなだれ込んでいくのを呆然と眺めるしかなかった。  次に彼らの姿を見たとき、その母は中央にいた。 その両腕はがっちりと掴まれていて、母は抵抗するつもりが無いのか大人しくされるがままになっている。  しかしヴィンセントの姿に気づくと立ち止まった。 「妾は決まりを破った。きちんと償うつもりだ」 「分かっているのか?その意味を」 「やっとあの人に会える」  ほっとしたようにうっすらと笑みを浮かべて、母は目を閉じた。 「お母さん!」
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