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無表情のまま混乱するレイヴンに幼子は「大丈夫?」と尋ねた。
小さな手がレイヴンの袖を引っ張る。
「フィオン殿下、彼は少し混乱しているだけですから、気になさらず」
目の前から、人の良さそうな笑みを浮かべた主が歩いてきた。
つい先ほどまでどこかの貴族とでもしゃべっていたのか、笑顔には作り物めいた片鱗が残っている。
「そうなの?」
「だから大丈夫ですよ」
「よかった!」
満面の笑みを浮かべる幼子につられたのか、主も笑みを浮かべる。
久しぶりにこの笑顔を見た、と混乱した頭の一カ所でレイヴンは思う。
「さ、殿下、あちらで侍女がお待ちですよ」
「うん。またね、レイヴン!」
小さな手はレイヴンに手を振り、そのまま侍女の方へかけていってしまった。
しゃがんでいた主は立ち上がり、なぜかにやにやしている。
「名乗ったのかい?」
「いえ……」
あちらから一方的にしゃべっていたようなものだ。
「おまえは幸運を掴んだみたいだね」
楽しそうに主は笑うが、レイヴンには訳が分からなかった。
どこで自分は幸運を拾ったのだろうか?
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