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「よう、あんた名前何てぇんだ?」
いやいや、肩抱かないで下さいよ。レティシア様限定なんですから。
「イレ……睡蓮ともうしま……もうしんす」
この場にいるのはレティシアと椿からの“お願い”だからだ。
睡蓮という偽名を使い、廓言葉を使うなんて、想像もしなかったが、レティシアからのお願いである限りイレーヌは受け入れる。
とはいえ、このお願いはいささか度を過ぎている。まさか本当の座敷に出すなんて、リンだって考えなかっただろう。まぁ、それを了承してしまった彼女も彼女だが。
椿が同席してくれているので、問題が起きることはおそらくないだろう。
「睡蓮、か。後で二人で飲みなおさねぇか?」
「……」
男は苦笑いを浮かべた。
イレーヌの瞳は、明らかな拒絶を宿している。この後の誘いなんて、閨の誘いでしかない。
男はイレーヌの耳元に唇を寄せた。彼女は逃げないが全身からぴりぴりするような“気”を男にだけ送る。
やっぱりな、と男は思った。
「俺はアンタの秘密を知ってるよ」
その言葉にイレーヌが硬直することも男はすでに予想していた。
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