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シスターはふつう恋をしない。神に仕えるのだからそれは当たり前だ。これを理解していないのでは話にならない。
「そんなぁ」
「早く祈りに戻れ」
こんなことも少なくない。
立ち去る己の後ろ姿に視線が突き刺さるのを感じるが、無視した。
ヴァルは自分に与えられている執務室に入り、大きくため息をついた。
「ずいぶんお疲れのようね」
誰もいないと思っていたのに、声の主は平然と目の前にいる。それに気付かなかったのか、それとも突然彼女が現れたのか。
「シ、シルヴィア」
にこりと微笑んで、シルヴィアはヴァルがくつろぐためのソファに座る。その動きは、とても辺境の島の出身だとは思えない優雅なもので、しかし貴族の令嬢のような計算し尽くした動きではないところが好ましい。
「さっきのシスターはおまえが?」
あの見習いシスターは最近見るようになった顔だ。
「そうよ!」
この時期は毎年こうだ。女性がヴァルの名にあやかろうとする。そしてシルヴィアと出会ってから、彼女はこの時期になるとその噂を広めるようになった。
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