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おかげさまでこの時期の来訪者はとんでもない人数である。
「おまえ本当にロクでもないことしてくれたな」
「いいじゃない、一年に一度のことなんだし。それにもう何年も前のことじゃない」
それが今になっても影響を残していることに彼女はあえて触れない。
にこりと、まさしく聖女の微笑みを浮かべるシルヴィアだが、腹の中にはいたずら心がいっぱい詰め込まれているのだ。
チョコレートの甘さで緩和されろ。
本気で毎年そう願う。
「というか」
「ん?」
「何しに来たんだ?」
「からかいに」
これまた笑顔だが、やはり慈悲深さではなくいたずらっこのようなもの。可愛らしい笑みとはいえるが、ヴァルは昔からこの笑みには顔が引きつってしまう。
「シルヴィア、溶けろ」
甘いものは好きだが今日だけは好きじゃない。
真顔で言い放ったヴァルに、シルヴィアは困ったような笑みを返した。
「それはちょっと困るわ。だって溶けちゃったらあなたにチョコレートあげられないもの」
甘いもの好きでしょう?という言葉とともに掌に置かれた小さな箱。
「ハッピー・ヴァレンタイン」
今日は彼の名前の日、一年に一度大切な人たちに気持ちを伝える日だ。
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