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シルヴィアはにやにやしていた。
それは寛容な兄であるロランの笑みが少々ひきつってしまうくらいである。
「どうかしたのか?」
「ふふふ」
秘密~、とにこにこ笑うだけ。いたずら心の塊みたいだ、とよく言われるがある程度自覚している。だからこそ、“こんなこと”があるとは思っていなかった。
「目に見えて人に優しいことをしない人が、プレゼントくれると嬉しいものよね」
“こんなこと”が起きたのは、数時間ほど前のことだ。
ひと月ぶりにイノセンス本部に行ったのだ。資料室に用があったため、ほぼ半日そこにいた。
一休みしたいと思い始めたころ、普段自分を守るためにそばにいる兄でも叔父でもない、親友がふらりと現れた。
「何してるんだ?」
「あら、ヴァル。久しぶりね」
人目を引く容姿を持つ彼は、埃っぽい資料室の中でくっきりと浮かび上がって違和感を感じるのに、その口から出てくる言葉は堅物そのもので、声だけが妙にしっくりと収まる。
それに気付いたとたん笑いがこみ上げてきてしまい、シルヴィアは抑えることもなく、笑い出す。
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