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「おまえ……」
もはや呆れかえった顔をしていた。
昔は泣きそうだったのに。
それを少しだけ寂しく思いながら、資料を閉じて話を聞く体勢になる。
「資料がほしくて」
「記録者〔メモリー〕なのに?」
「あなたが言うと嫌味にならなくて不思議だわ」
「は?」
記録者とて、表の歴史資料の確認をしなければ、秘するべき裏歴史を他者に漏らしてしまう可能性がある。そうなったときは情報を漏らした記録者も聞いてしまった相手もこの世に別れを告げなければならない。
そう言った事情もまた、表には伏せているため、記録者が資料室にいると嫌味を言われることが多かった。
「ま、気にしないで。ひと休みしたいと思うんだけど、一緒にいかが?」
「いや、これから任務だ」
きっぱりという彼に、シルヴィアの笑みが固まる。
「姉貴分がせっかく誘ってやってるのにー!」
痩身とはいえ、それなりにがっしりとしたヴァルの肩を掴み、がたがたと揺さぶる彼女の腕力や握力がどうなっているかはさておき、とにかくシルヴィアの笑みは影のあるもので怖い。
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