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五十階建てのタワーマンション。数日ぶりに帰る我が家はその三十二階にあった。百二十平方メートルの部屋は、一人暮らしには広すぎる空間だが、ゆいりの年収ならそれもうなずけた。実際、即金で購入した。近所づきあいはないから確かではないが、このマンションに住む住人には即金で購入した人が多いときく。高級マンションを即金購入なんて、まともな人間であるはずがない。なかには人に言えないようなことをやっている人間だっているだろう。
リビングの南向きの大きな開口部はインナーバルコニーにつづき、遠く大阪平野が一望できた。
淀川の向こうのエリア・オーサカもよく見えた。立ち並ぶ梅田のビル群……。これほどはっきり見通せるのに、そこへ行くことはできない。空間が歪んでいて、淀川をこえた場所へはたどり着けないのだ。まっすぐ進んでも、必ずどこか別の場所へと出てしまう。空を飛んでも地下を掘っても同様だった。
エリア・オーサカに入るには、ダイバーになるしかない。そして、オーパムの技術によりダイバーの能力を得られるのは地球人だけだった。
夕陽が空と都市を赤く染め出した。うっとりするような眺めだ。静かな絶景を見ていると、そこが危険な地域だとは思えない。しかし夜になれば、明かりひとつないエリア・オーサカは、ぽっかりそこだけ穴があいているようで、あるいは広がる海のように、人間の営みをまったく感じさせず、やはり特殊な空間なのだと思い知らされるのだった。
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