第2章『南港』

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 初顔合わせは大阪空港の行政代行センターだった。  指定された時間より早く着いた八坂ゆいりは、空港展望デッキで絶え間なく発着するタチャームを飽きず眺めていた。  長い翼をもつ飛行機の姿はまったくない。すべてがタチャームにとってかわられていた。飛行機のような空気力学に則った、優雅ささえ感じさせる共通のフォルムではなく、さまざまな形状のものが空をゆく。機能的なもの、装飾を施したもの、大きさもまちまちだった。が、全体としてジャンボジェットのような数百人も乗れる大型のものはなく、大きくても観光バス程度で搭乗人数も五十人以下だ。  機能的ではあったが、飛行機のような優美さを持たないと嘆く人も多い。マッチ箱、せっけん箱などと揶揄されていた。  タチャームは滑走路を必要としなかったから、好き勝手な場所から離着陸しているように見えた。しかし管制が指示を出し、きっとなにかのルールがあるに違いない。そうでなければ、事故が起きる。  午後の日差しは暖かかったが、吹きさらしの展望デッキは風がまだ冷たかった。一面ウッドデッキのあちこちに植えられた木々のようやく葉をつけだした枝先もざわざわとしなり、ゆいりはブルゾンの襟を合わせる。
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