第2章『南港』

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 平日ということもあって、オープンカフェのウエイトレスが暇そうに佇んでいる他、周囲にはゆいり以外に客はいない。  いや、ひとりいた。  デッキの端のほう――手摺に体をあずけ、音もなく飛び交うタチャームを見ている、年の頃は十三、四ぐらいの少女。短い髪のため、あどけなさの残る横顔が遠くからでもよくわかった。グレイのパーカーを着て、ジーンズの裾を折り曲げていた。  普通なら学校へ行っている時間のはずだと、ふと思ったが、学校の制服を着ているわけでなし、深くは考えない。自分には関係ないことだ。  手首をひねって時計を見る。あと一〇分。そろそろ行こう。  ゆいりはきびすを返した。ウッドデッキにヒールを鳴らしながら、屋内へと入っていった。  いつもの暖かい部屋へ入ると、受付で来訪目的を告げる。  すぐにオーパム人担当官が奥のコンソールからやって来た。例によって先日の担当官かどうか区別がつかなかった。
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