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紀崎が席を立った。想像どおりの背丈だ。百八十センチはまちがいなくある。
「あの、紀崎くん――」
ゆいりは、自分より五つほど年下の若者を呼び止めた。
紀崎は足を止めて、半分振り返って言った。
「あんたが遭遇したっていうその新種の亜獣だが、それはおれが倒してやる。悪いが、あんたらには横で見ていてもらう。手出しするには及ばない」
「たいした自信ね」
ゆいりは鼻白んだ。
「女子供に戦さなんかできやしない。オーパムがどういう基準で人選したかはわからんが、おれにもプライドがある。じゃあな」
紀崎の広い背中が去ってゆく。部屋から出ていくまで見届けると、ゆいりは深くため息をついた。
紀崎の気持ちは理解できた。しかしダイバーとしてこれまでやってきた実績を少しも見ないで退席してしまうのはいかにも失礼だろうとも思った。
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