プロローグ

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 いまゆいりが所持している武器は、これだけだった。刃渡り二尺の刀。しかしただの刀ではない。異星人の技術によって作られた特製の刀だ。日本刀より切れ味鋭く、硬いものを斬っても刃こぼれはしない。  「斬妖丸」という名前を、ゆいりはつけていた。室町時代、物の怪を退治したとされる伝説の刀の名だった。  雨粒に光る斬妖丸の柄を両手でしっかりと握った。 「えいっ」  飛びかかってきたその黒い生き物を、十分に引きつけてから薙ぎ払うと、見事に両断されて地面に落下した。それは、ゆいりの脚の傷口から流れ出る血の匂いをかぎつけたカラスヒルだった。斬られてなおうごめく強い生命力に、吐き気さえもよおした。  つぎつぎと斬りすて、血路を開いた。  大きく跳ね、JRの高架を越え、さらに阪急イングスと阪急梅田駅の間の道路を行く。路上の錆びついた何台ものクルマの影に、またべつの異形の生物の姿を見かけたが、ゆいりは無視して通りすぎる。  異形の生物は、風のように駆け抜けるゆいりに注意を向ける様子を見せたが、それらはカラスヒルと違って元来素早くは動けず追いかけられない。
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