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着地のたびに足が痛んだ。応急処置で止血だけはできたが、鎮痛剤を処方している暇がなかった。
痛みに顔をしかめつつ、先を急いだ。惰性で前へ進んでいた。一度立ち止まってしまったら、もう二度と動けないだろうと思った。それだけ体力が落ちていた。
雨と寒さがさらに気力を萎えさせた。それでも跳躍を重ね、茶屋町まできた。
前方――茶屋町アプローズの一階、梅田芸術劇場の壁面に巨大な穴があいているのが見えた。闇よりも黒い、不気味な穴――ゲート、脱出口だ。
しかし、その前に、一匹の生物がいた。ヒツジほどの大きさの、緑色の縞模様のある生物。何本も生えている太い足を動かし、ゆいりのほうに向かってくる。その背後に口を開けた、果てしなく黒い存在から逃れようとしているのだ。
ゆいりは唇を噛む。
立ち止まりたくはなかったが、いったん立ち止まる。敷き詰められた人工大理石のタイルが雨に濡れて光って、ゆいりの姿を反射する。
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