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「あなたの両親は交通事故で意識不明の重体です。私ができる最善の治療を施しました。…申し訳ないですが二人とも今日が峠です。」
と医者は悔しそうに、辛そうに拳を握り締め俯いた。
「………そうですか。」
と声を震わせながら言った。
紗羅は母の手をまたそっと握り締め、父の方を見た。
――――………‥‥
あれからどれ程時間が経っただろう。紗羅はずっと母の手を握り締めたままだった。
父の顔を見ていたら父が奇跡的に目を覚ました。
「父さん?」
「……さ…ら…」
「今、先生を呼ぶから!」
紗羅が先生を呼ぼうとすると
「……いいんだ、紗羅。私はもう長くない。だから、最後に私の話を聞いてくれ…。」
「で、でも!」
「いいんだ。紗羅、お前を一人残して逝くのは、心残りだ。でも、最後の父さんの言葉を聞いてくれるかい?」
紗羅は父の言葉に静かに頷いた。
「お前は、人生まだまだこれからだ。だから、未来が変わってしまうような人生にしなさい。どんなに辛くて…苦しくても、前を向いて歩きなさい…。いいね…。そろそろ父さんは…逝く…よ。…紗羅、お前が…私の子で‥よかった…。愛して…るよ…。」
パタリと紗羅に向けて伸ばした手が落ちていった。
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