プロローグ

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「以上、賛成多数により、本法案は可決、成立致しました」  鳴り止まぬ拍手と怒声の嵐――  牛歩戦術に走った野党議員たちの悔しそうな顔、顔、顔……  そんな中でひとり、勝ち誇ったように満面の笑みを溢している白髪の男の姿。  その日その時、大揺れに揺れまくった国会は、与党の力押しに屈して法案を採択した。 ――国民免許制度――  最初こそこの法案を通す事は、与党内部でも不可能だ、とさえ思われていた。  だが時の首相、大泉隼人の手腕は、過去のどの首相たちとも違って、国民を巻き込んで、大きなうねりを引き起こした。  大泉隼人が叫べば国民が応える。  単なるカリスマを通り越して神掛かった彼の声は、国民の心に直接届いたのだ。  そんな彼が、まさに一命を賭して放った国民免許制度と云う法律。  日本国民は全ての事柄に於いて、その指針を示す許可証を得なければならない。  申請は簡略化の為、ものによってはインターネットによる取得も可能。  野菜を買うのにも許可が必要。  パンを買うのにも米を買うのにも、同様に別々の許可が必要。  トイレに行くのにも許可が必要。  結婚をするのにも……は以前から必要だったからいいとしても。  その前段階で付き合うのにも許可が必要。  許可申請は事前二週間前までに行わなければならず、もしそれを破った場合は、それぞれに見合った過料が発生する。  但し、未成年に関してだけは、その親権者が許可証の発行を、代理で行う事ができる。  よって、未成年者の違反による過料は、その親権者に発生する。  これにより、日本全国に犯罪者のレッテルを貼られる人が溢れ、程なくしてこのとんでもない制度は廃止される……発足当初は誰しもがそう思っていた。  しかし、未だ止まぬ熱狂的な支持者の後押しもあって、いつしかこの制度も国民の隅々にまで浸透し、生活様式すら大きく変貌させて、人々の中へと当たり前のように溶け込んで行った。  一頃は増加傾向だった軽犯罪者の数も、浸透の具合によって、次第に沈静化しつつある。  国民の管理を一元化する事で、逆に実際の大罪が大きく減った。  これが国民に大きく受け入れられた所以である。  住めば都とはよく言ったもので、諸外国も同様の法案を通そうとする傾向にあり、わざわざ日本の現状を視察しにくる国家元首は後を絶たない。  そんな制度が定着して、早十年の月日が流れた――
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