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この状況自体、絶対にあり得ないのだ。区役所の入り口に詰めていた警備員は、いったい何をしていたのか、って疑いたくなるくらいの事態。
「あんた。バイト許可証は?」と言いながら、やっとこちらを向いた彼女。
それでも被ったままのフードが、その表情までは読み取らせてくれない。
「……持ってません」
「そ? ならちょっといいバイトがあるんだけど。ボクに着いてくる?」
「給料とか……そう言った感じのものは?」
「気になる?」
「当然です!」だって俺。
テレビが、俺の好きなアニメが懸かってるんだもん。今すぐにでも欲しいさ。
今週見逃しても来週こそは、って。
本当は今日から観たい。観たいんだ! そうしないと俺の嫁が逃げちまう。
許可証よりもまずは金。そう、金こそ全て! 世の中を動かすのは結局、金の力だ!
金さえあれば、テレビも買えるし、小生意気な翔子を黙らせる事だってできる。
「それに応えられるかどうかは、あんた次第だよ」
そう言って、女性はパーカーのフードを降ろして頭を軽く振った。
解けるように広がる、疎らに黒髪の混ざったロングのブロンド。
化粧っけはないが、それが微妙に残ったあどけなさを引き立ていて、妙に妖しい雰囲気を醸し出している。真っ赤なショートパンツにロングブーツ。その間の絶対領域をまるで繋ぐかのように張られたガーターベルト。踵にはまるでカウボーイのような歯車まで着いている。
あんなので蹴られたら、痛いなんてものじゃ済まないぞ、きっと。
恐らく見た感じ、俺よりは少し歳上。
「で? どんな内容の仕事なんですか?」
「それ、今ここで聞く?」
「いや……ちょっと……」
「だって聞いちゃって逃げ出されたら困るのはボクなんだからね!」
そう言って女性は両手を腰に当てて俺の事を睨み付けた。
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