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「やぁ、新しいお客さんかい?」
「ああ。ボクが拾ってきた」
「そう。君、お名前は?」
「おおいず……いや、大湖です」
俺は一瞬、自分の苗字を言う事を躊躇った。だって、やっぱ。
どこから漏れるか、なんて判らないからな。俺が大泉隼人の孫だ、って事が。
「大湖くん? そ。それじゃ直海ちゃん、後はよろしく」
「いいかいボウヤ。今からボクらのリーダーに会わせるから。ボクの後から着いてきて」
女性はそう言うと、店の奥の方へと進み、クローゼットの中に隠されたドアを開ける。
「ほら。ぐずぐずしない」
女性はあからさまにイライラしながら、俺の方に振り返った。
ドアが開く。その向こうは闇だ。
天井から電気コードだけでぶら下がっている薄暗い蛍光管が、ゆらゆらと揺れながら部屋全体をほんのりと照らしている。
見た感じ、バーの倉庫として使われていると思われるその部屋の大きさは十畳ほど。その中に、よく目を凝らすと、俺をここまで連れてきた女性の他に二人見える。彼女は四人掛けのソファーをひとりで独占し、脚を投げ出している男の前に進み出ると、そこで止まった。
真っ赤なパーカーの上に真っ黒な革ジャンを着込み、着古したような紺のジーンズを履いたその男は、目の前に立った女性に向けて視線を上げる。
「面白そうなの見付けたから連れてきたよ、善之」
「そうか。今度のは使えるんだろうな」
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