第一章 ビビッド

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「お兄ちゃんずるーい! 勝手にチャンネル変えたー」 「バカか? お前。これから俺の観たいアニメがあるんだよ」 「いけないんだー。訴えちゃおっかなー」 「わ、わ、わっ! こら翔子、ちょっと待て」  我が家の、わりとどこにでもありそうな、標準的サイズの居間。俺と妹の翔子は、これまた標準的なサイズのテレビの前に噛り付いて、お互いをけん制しながらにらみ合いを続けていた。  翔子に言われて仕方なく、俺は慌てて取り上げたリモコンを放り投げる。  まったく。誰だ? こんなバカげた国民免許制度なんて法律を作ったヤツは……ってそれ。  うちのじいちゃんなんだけどさ。  俺、大泉大湖の祖父、大泉隼人は十年前、首相だった時に今の国民免許制度を強制採択した男だ。今ではそれも定着していて、孫である俺も、わりと英雄的な扱いを受けている。  弱者の権利を守る為、と称して行われた平成の大改革は、犯罪抑制に大きく貢献した。  と言うのは建前で、訴えるのにも許可が必要な時代になって、国民は揃って牙を抜かれてしまったのだ。今やそれに異論を唱える人間なんていない。残っていないんだ。
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