第一章 ビビッド

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 もしかしたら職員も休日出勤拒否許可証なんてものを発行していたりして。うーん……  そう思いながらそれでも足が向かってしまった区役所の正面玄関は固く閉ざされていて。  側面に設けられた警備室前の休日専用通用口だけが解放されていると云う状態。  ま、やっていないのをわざわざ確かめにきた暇な俺もどうか、とは思うけど。  それでも何かないか、と思って、警備員室の前を通り過ぎて。  俺はそこで不思議なプラカードを持つ、艶めかしい脚がスラリと伸びた女性に、思わず声を掛けた。 「本当にバイトの口、あるんですか?」 「さぁね」と意地悪く……と言うよりあっさりと流されてしまった。  確かにプラカードには『バイト募集』と大きく書かれている。  俺はもう一度、グレーのパーカーのフードを頭からすっぽりと被った女性に声を掛けてみた。 「だって、確かに『バイト募集』って、そこに」 「あんた。興味があるの?」 「ま、一応……」 「ふーん……」それでも彼女は横を向いたまま、俺と目を合わせようとしない。  と云うより、パーカーが顔を覆い隠していて、まったく表情がこちらからは見えないのだ。  許可が必要なはずのアルバイト。  当然だが、こんな感じで『バイト募集』などと書かれたプラカードを掲げて仕事を斡旋するような事などあり得ない。法の下、あってはならないのだ。  普通ならば。そう。  しかも休日の市役所に入り込んで、あからさまに怪しいプラカードまで掲げて。
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