滞リーシンガリー

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「………ああ、問題無い。開発は滞りなく進んでいる………」 高層ビル群の中でも頭ひとつ抜き出たビルの、最上階のだだっ広い部屋。 近代的な内装に似合わない軍服を身に纏った40代位の男は、電話の子機を耳に当てて誰かと会話していた。 ガラス窓から覗ける町並みは、最近一気に進んだ技術革新によって過去と未来のぎこちない調和が窺えた。 ガス灯に照らされる立体ホログラム等は滑稽でしかない。 「………実用化?待て待て、まだ試作段階だ。安全性が確認できるまで兵に使用させることは出来ない」 ははは、と男は笑うが相手はかなり腹を立てたようだ。 ガチャリと音をたてて回線が切れる。 男は子機をゆっくりと耳から遠ざけ、充電用のホルダーの上に置く。 「安全性……上手い言い訳を考え付くもんだな、上層部も」 机の上に無造作に置かれた書類の中から一枚を引っ張りだし、読む。 もう何度も目を通して内容は把握しているが、これを眺める度に自分の立場を考えさせられる。 『神経接続高出力身体能力増強スーツの開発及び実用化に向けた第三報告書』 "CORIEV"に対抗するために"ナフィーネ共和国"で開発されている、特殊戦闘スーツ。 しかしその詳しい内容は99%は国家機密とされ、明かされていない。 ただひとつ、コレに関わる人間に伝えられる事があった。 『アダムは我等、イヴと共に行かん』
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