第三章

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何もかもが燃えていた。木が、家が、教会が、全てが炎に包まれていた。 右手には鋭利な刃物。左手には……なんだったろうか。覚えていない。一つだけ確信が持って言えるのは、僕が全てやったということだけだ。 殺した。何人この手で殺したのか数えきれないくらい殺した。だというのに、僕の手には人を殺したという感触が全くといっていいほど残ってはいなかった。今起きた事は全て夢で、起きたらいつも通りの日常があって、あの人の笑顔があって、僕も笑っていて。そんな温かい日々が待っているはずだ。はずだったのに……。 ここは違う。あの温かい場所じゃない。 だから僕は歩いた。何度もつまずき倒れたが、僕は歩いた。ここじゃない。僕の居場所はこんな所じゃない。だって、燃えているんだ。何もかも。普通に考えて変だ。なんで燃えているんだ。おかしいじゃないか。ここにはあの人がいて、大きな家があって、近くには教会があって、綺麗な小川が流れていて、そんな場所だったはずじゃないか。 違う。ここじゃない。ここにいたらダメだ。行け、行くんだ。ここにいたら、また僕はやってしまう。 ――何を? 決まっている。それは…… ―――――――●――――――― 「――!?」 まただ。あの夢。悪夢といってもいい。現に僕は汗をびっしょりとかいているし、毛布も少し濡らしてしまっている。 起き上がって、そこで気付いた。 「ここは……どこなの……?」 というか、なんで僕はベッドに寝ているんだ? 分からない。何がどうなってこうなっているのか。さっぱりだ。
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