一三四(にない)

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「しょーますすいせい?」 「8年周期で太陽を回る彗星なんだ。地球に最接近するってニュースを見たから、試験近いけど、見えないかなと思って来てみたんだ」 ニナイの曇った表情から察するに、どうやら見えなかったらしい。 「彗星って、でっかい流星みたいなやつだろ? 来て、去って終わりじゃないのか?」 俺が疑問を投げかけると、ニナイは鼻の穴を広げて何やら語り始めた。 興奮するニナイの話はよく分からなかったが、まとめると、彗星も実は太陽の周りを回っていて、さらに俺たちは彗星が撒き散らした塵やガスから生まれた、ってことらしかった。 「今の季節だと、北の空は北斗七星が高く昇ってるよ。あれ」 と、ニナイは夜空を指さした。北斗七星なら、教科書で見たことがあるから、何となく形が分かる。 「その反対側にカシオペアがあるんだけど、今は地平線近くて見えないや」 それからニナイは春の大三角形やらについて語り始めたが、正直右から左だった。 スマン、ニナイ。 「……乙女座は、稲穂を持っている豊穣の女神または正義の女神だって話なんだ」 正義、と聞いて、俺の耳が反応した。 「黄金時代には平和に暮らしていた人間達が、白銀、鉄の時代になるにつれて、欲にまみれて、戦争を起こすようになった。神々は人間を見捨てて天界に帰っていったけど、正義の女神だけは最後まで地上に残ったんだ。 でも、人間が皆、悪い心に染まっているのを知って、絶望して善悪をはかる天秤を投げ捨てて天界に帰ったんだって。 その天秤が天秤座」
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