プロローグ

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俺がそこまで意固地になるのには理由があった。 俺自身がいじめを受けていたからだ。 先生に。 初めは勘違いかと思った。 でも、明らかに先生は俺を避けていた。 授業中に俺が手を挙げても、俺を指名することはなかった。何を言っても無視された。 先生が俺を嫌っているらしいことはクラスの皆にも伝わった。 それに便乗して俺の机の中にゴミを入れる奴、教科書や上履きを隠す奴。 俺が上履きを履いていなくても、授業中に教科書を持っていなくても、先生は俺にどうしたのかと訊くことはなかった。 どうして先生に嫌われたのか分からなかった。 嫌われる前は、普通だった。 「遠藤君は正義感が強いのね」 と言われて、嬉しかったこともあったくらいだ。 俺は学校に行かなくなった。 部屋にこもり続けて、そして冬が来た。 雪の重みで、家も学校も潰れてしまえばいい。 そして、俺も一緒に潰されてしまえばいい。 そう思っていたのに、冬の晴れ間に太陽の光を反射する白銀の世界を見たら。 眩しくて綺麗で。 雪なんて要らないと考えた自分の汚らしさを思い知らされたようで、光すら憎らしく思ってしまう。 春になって父さんが、東京へ引っ越すと言い出し、引っ越した。 じいちゃんとばあちゃんが見送ってくれた。 ずっと手を振ってくれて、俺たちが見えなくなっても手を振っていただろう。 灰色の世界に2人を残したまま東京に逃げる自分が許せなかった。 冬になれば、あの重い雪が降る。 山にも屋根にも道路にも畑にも降り積もって、全ての音を吸い込むような静けさがやってくる。 あの沈黙に取り残されて、押し潰されるべきは俺なのに。
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