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〈ぜっっったい、ヘンなんだって! 結衣ちぃなんか知らない?〉
〈むむぅ。アッキー先輩、それは恋、なのでは?〉
亜紀はミニハンバーグを咀嚼しながら、棒付キャンディをくわえる真帆を見た。彼女はどこにも焦点の合わない瞳で窓の外を見つめている。亜紀はむむぅ、と眉を寄せ、メールを打つ。
〈どーもそんな感じじゃないんだよねぇ。あたしの乙女チックレーダーが全く反応しないんだもの〉
〈……なんですかそれ。それよりこないだ貸した漫画はやく返してくださいよねー。〉
ちっ、と舌打ちして亜紀はケータイを閉じた。結衣から借りた漫画はまだ読んでいない。
「ちょっと遠藤借りていい?」
「え?」
真帆を観察していたので、亜紀は突然声をかけられて驚いた。しかもその相手が舞原碧だったのでなおさら。
舞原はにっこりと微笑んで、いいよね、と言った。亜紀は彼の澄んだ瞳に見入ったまま、気づくとコクリと頷いていた。
舞原が何か言って、真帆は彼の顔をしばらく無表情に見つめると、ゆっくり立ち上がって素直について行った。
二人が連れ立って教室から出ていくのを亜紀は不思議な気持ちで見送った。
しばらくしてから我に返ったようにケータイを開いてメールを打つ。
〈やっぱり恋、なのかなぁ……〉
〈え、まじですか! あの真帆ちゃん先輩が!? ちょっと詳しく聞かせてください!〉
亜紀はケータイを閉じると、なんとなく窓の外を見やった。鉛色の雲がゆっくりと押し寄せてきている。
傘持ってないなあ、と思いながら弁当の残りをしまって、なんとなく真帆たちが出て行った教室の扉を見た。
クーラーの風が冷たかった。
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