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空き教室に入った舞原は、真帆を座らせると扉に鍵をかけた。教室には椅子しかなかった。
「……あなたは誰?」
真帆は声が震えそうになるのを抑えるように、慎重に、絞り出すように呟いた。振り返った舞原に、いつもの微笑はもうなかった。
そこには何もなかった。そのことが真帆の胸を妙にざわめかせ、締め付けた。
「あのメールを送ったのはあなたなの?」
舞原は椅子を引っ張ってきて真帆の前に座った。
「僕の父はね、インターネットセキュリティに関する仕事をしていたんだ」
「お父さん?」
「普通の家族だったよ。朝起きると母がトーストとハムエッグを持ってきてくれて、父のネクタイをきちんとしめて、いってらっしゃいって背中を叩く。父は毎朝自転車で会社まで行っていたんだ。腹が出てきたのを気にしてね、母が勧めたんだよ。父が出ていく音で妹が起きだしてきて、母が髪をとかしてやるんだ。そんな普通の家族だと思ってた」
真帆は下を向いて淡々と語る舞原をじっと見ていた。舞原が顔を上げる。目があった。胸がざわつく。彼の目の奥にあるものに呑み込まれそうになる。
「父は突然会社をクビになったよ。なんでも父のセキュリティが小学生に破られたらしくてね。その小学生が直接会社に不利益を与えたわけではなかったんだけれど、信用ってもんがあるでしょ。ねえ? 小学生に破られるセキュリティを使ってるところなんか、だめでしょ」
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