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背中を冷たい汗が流れる。真帆は拳を握りしめて、舞原から目を逸らさないようにしていた。逃げちゃだめだと自分に言い聞かせる。
「君のせいで父は会社をクビになった。そのあとはまあ不幸の連鎖さ。みーんなばらばらになっちゃったよ。母は男と出ていき、父は僕らに暴力をふるって刑務所いき。僕らは別々の親戚に引き取られた。ちゃんちゃんっ」
そこまで一気に話すと、舞原は笑った。自嘲気味の笑み、哀しい笑みだった。
「どう? 自分が不幸にした本人を目の前にして」
教室に沈黙が落ちる。そして真帆は揺れる視線を床に落とし、絞り出すように呟いた。
「……わからない」
舞原は驚いたように目を見開き、すっと力をぬいた。
「わからない、か。泣きながら謝るのかと思ってたけど」
「あなたが求めるなら謝る。だけど謝って許されるようなことではないし、私は……どうすればいいかわからない。ごめんなさい。精いっぱい考えたけれど、私には、何もできない」
はは、と舞原は渇いた笑い声を上げた。
「何もできない? 僕らをばらばらにするほどの力があるのに? 傲慢だね」
「……」
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