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その瞬間、結衣の顔から感情が削げ落ちた。
絶え間ない雨音がその虚無を埋めるように部室を満たす。薄暗い部室を稲光が一瞬照らす。
そして結衣は口元だけで笑った。
「碧くんから聞いたんですか? どうして碧くんが真帆ちゃん先輩の味方をするんですか? 碧くんは私の兄のはずですよね? 家族ならいつだって味方してくれるはずですよね? おまえが結衣の家族をぶちこわさなかったら!」
結衣は隠し持っていた銃を真帆に向けて叫んだ。引き金に指をかけ、肩で大きく息をしている。
「真帆ちゃん先輩のセキュリティを破って、父さんと同じようにダメ人間のレッテルを貼ってやるつもりだったんですけどね、さすが先輩です、私なんかじゃ全然ダメでした。もう強硬手段ですよ」
結衣は銃を構えたままゆっくりと真帆に近づく。
そしてその眉間に銃口を突きつけた。
「セキュリティを解除してください。その間に結衣がめちゃくちゃにしますから。そうしたら先輩は信用、そして未来を失うんですよ。結衣たちみたいにね」
結衣は口角を歪めるように笑いながら銃口で真帆の眉間を小突いた。
真帆は、真っ直ぐに結衣の目を見つめた。
「私は、結衣たちの人生を一度壊してしまった。だから私は、もうこれ以上だれの人生も壊したくない」
「ふーん。なら殺しますよ?」
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