能の無い鷹は隠す爪が無い

44/45
前へ
/280ページ
次へ
  「確かにあの子、男子から人気あるからね。あんたからしたら面倒よね」 「それが原因で女子と拗れるのも面倒だし、それに」 「しずくとあたしの立場も面倒、と。ああ、ホント、あんたと関わるとろくな事が無いわ」 自転車のハンドルにもたれて、深い溜め息。 「わかった、引き受ける」 「ありがとう、お礼に荷物でも持とうか、久々に」 「死ねば」 ぐいっとペダルが回されて、ゆかなの二つ縛りが揺れ始める。そのまま急カーブを回って、見えなくなった。 ああ見えて、結構いいやつなんだ、ゆかなは。あれだけ迷惑をかけてるのに、学校ではあくまで傍観者でいてくれる。 昔馴染みのよしみ、って事かな。礼羽さんが昨日あれだけ屈託無かったのも、ゆかなが敢えては話さなかったからだろう。 ゆかなは、僕の最終防衛線だな。と、この時、痛切に思った。 唯一、僕の全てを知った上でまともな会話が出来るのはゆかなだけだ。ゆかなと話している時だけ、僕はまだ辛うじて境界線を踏み越えていない事を確認できる。  
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1228人が本棚に入れています
本棚に追加