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「ほいっ! 下谷君おつかれー」
「サンキュー」
休憩。グランドのベンチに座り込み、朦朧とした意識のままペットボトルを受け取る。指先に触れた柔らかい感触で我に返って、バクンと心臓が高鳴った。マネージャー、礼羽しずくの手の平。触れたところがいつまでも、熱を持ったようにじんじんしている。
「およ、なーんかいつもよりお疲れ?」
「え、ま、まぁ。今朝五時から投げ込みやってたからなー」
「ほひゃー!! 五時!?」
「おうよ。俺はまだまだこんなもんじゃ無ぇ! ぜってーあのアンチキショーからエースの座を取り戻してやる!!」
「かっちょいーい!!」
この小動物みたいな可愛い笑顔。これさえあれば俺は二十四時間走り込める!
「あ、あみだくじ君も、おつかれー!」
「うす」
「げ……」
あみだくじ、改め油井ヶ島のアンチキショーが余裕綽々の顔でてくてくと歩いて来て、俺の隣にどっかりと腰掛けた。コンチキショー、五月のはじめにぽっとでて来て俺から一年期待のエースの座を奪った憎きアンチキショー。
「しずく、俺の名前は油井ヶ島だ」
何か話し方も気障っぽくてコンチキショー。
「下谷、そういや、例の彼はどうした?」
しずくが先輩方の方へドリンクを配りに行ってから、油井ヶ島が思い出したように言った。
「あぁ、岡古井か。断られた」
何の話かって、勧誘の話だ。うちの部は部員が先輩方を入れても十人しかいない。だから上下関係は緩いんだが、夏が終わって先輩方が抜けたらもはや練習試合すら組めない。頭数だけでも揃えておかないと。なのにコンチクショー、
「まあ、良かったのかもな。聞く限りじゃあとても有望とは思えない」
「だーからそんな事言ってる場合じゃねーっつてんだろーが!」
「弱卒を率いるエースになって楽しいか? そんなんだからお前はエースになれないんだ」
「な、ん、だ、と、コンチキショー!! しずくに名前すら憶えられてない分際で!」
「名前など問題でない。俺はさっき二十秒ほど目を見て話した」
「はっ!! 俺なんかさっきちょっと指先が触れちゃったぜ?」
「練習中に『いけー鬼が島君ー』と応援された」
「教室で二時間目の休み時間ずっと話してた」
「おい一年! ボール拾っとけー!!」
「「うーす!!」」
今日もぜってーコンチキショーより遅くまで残って投げ込んで、いつかエースの座を奪い返してやるから覚えとけ!!
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