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足の方を縛り上げながら、メガネの人が呟く。この年齢の人に子どもがいても、何も不思議はない。
私はしゃがんで、さっきメガネの人が縛った手の結び目を更にきつくしながら聞いていた。
「だから、君のお父さんとお母さんの気持ちは分かるつもりだ。友達が戻ってきたら、なるべく早く帰って安心させてあげるんだよ」
そう言われると、私は頷くことしかできない。
もっとも、私と踊ろうと言う人はいないだろうから、結局言われた通りにする他ないのだけれど。
きれいなドレスも泥まみれになってしまった。ルーフィアさまになんて言い訳しよう。マァリーンにはまた笑われるだろうな。
フォルは……。
フォルトーは、きっとまた私を叱るだろう。愛称ではなく、ちゃんと私の名前を呼んで。
お腹の底から、感情が膨れてきた。目元がジンとして、みるみる世界がぼやける。
頬の上をボロボロと涙が落ちるのがわかった。
まだ耳に残る、フォルトーの声。私に走れと叫んだのは、きっと私を逃がすため。たくさんの大人相手に、絶望的な気持ちで叫んだに違いない。
私はそんなフォルトーを置いて、逃げてしまったんだ。
涙が止まらない。
もしもこの人たちに会わなかったらと思うとゾッとする。
いや、もしかしたらそれすら、間に合わなかったかもしれない。
その可能性は、どんどん私の体温を奪っていくようだった。さっきとは違う恐怖が、体の芯から私を冷やしてゆく。
もし、フォルトーに何かあったら。
もし、もう会えなくなってしまったら。
涙が止まらない。
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