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涙が止まらない私に、メガネの人は何も言わなかった。静かに作業の手を進め、終わったらまたさっきのように背中をさすってくれた。
「わたし、わたし」
思いが膨れ過ぎて、何を訴えたいのか自分でも分からない。それでも、聞いて欲しくて声が溢れる。
「何を恐れているんだい?」
涙でぼやけて、メガネの人の顔がもう見えない。耳が、心配そうな声を拾い、頭に届けてくれる。
恐れていること。
恐いこと?
「フォルに」
しゃくりあげて言葉が途切れる。
フォルに。
怒られること?
嫌われること?
もう会えないかもしれないこと?
「フォルと一緒にいたいんです。もしも何かあったら」
涙がまた声を止める。
メガネの人は背中をさすりながら、私の言葉を待ってくれているようだった。
「なのに、私はフォルを置いて逃げ出した。フォルは助けに来てくれたのに」
ボロボロと涙は落ち続ける。
怒られるのは良い。
嫌われるのも、嫌だけどきっとしょうがない。
だけどもしも。
もしもフォルトーが……。
怖くなって慌てて考えを打ち消す。
大丈夫。きっと大丈夫。
「大丈夫。彼女は強い」
背中をさする手が、背中の中心で止まる。まるでそこから、熱を注ぐように。
「君の友達が、フォルが苦戦していたとしても、彼女が加勢したなら大丈夫」
月も、今日は若いカップルを祝福すると言っているよ。
その言葉を最後に、メガネの人の手が離れた。
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