7/8
前へ
/26ページ
次へ
 涙が止まらない私に、メガネの人は何も言わなかった。静かに作業の手を進め、終わったらまたさっきのように背中をさすってくれた。 「わたし、わたし」  思いが膨れ過ぎて、何を訴えたいのか自分でも分からない。それでも、聞いて欲しくて声が溢れる。 「何を恐れているんだい?」  涙でぼやけて、メガネの人の顔がもう見えない。耳が、心配そうな声を拾い、頭に届けてくれる。  恐れていること。  恐いこと? 「フォルに」  しゃくりあげて言葉が途切れる。  フォルに。  怒られること?  嫌われること?  もう会えないかもしれないこと? 「フォルと一緒にいたいんです。もしも何かあったら」  涙がまた声を止める。  メガネの人は背中をさすりながら、私の言葉を待ってくれているようだった。 「なのに、私はフォルを置いて逃げ出した。フォルは助けに来てくれたのに」  ボロボロと涙は落ち続ける。  怒られるのは良い。  嫌われるのも、嫌だけどきっとしょうがない。  だけどもしも。  もしもフォルトーが……。  怖くなって慌てて考えを打ち消す。  大丈夫。きっと大丈夫。 「大丈夫。彼女は強い」  背中をさする手が、背中の中心で止まる。まるでそこから、熱を注ぐように。 「君の友達が、フォルが苦戦していたとしても、彼女が加勢したなら大丈夫」  月も、今日は若いカップルを祝福すると言っているよ。  その言葉を最後に、メガネの人の手が離れた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加