第一巻 不意にありくべからず

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憂鬱な時間の幕開けだ。 撫子は 大の古典嫌いである。 現代文はどちらかと言えば 好きなのだが。 古典はどうも駄目らしい。 先生は嫌いじゃないし 親しい関係であるから むしろ好きなはずなのに。 教科が悪い。 「はーい。今日は、 『玄象という琵琶、鬼のためにとらるること』 をやりますがー。 まずは予習チェックをしまーす」 先生は何故だかうれしそうに にやにやしている。 その一言に ブーイングの嵐が巻き起こる。 そんなの聞いてないし、 という生徒もいれば 黙々と借りたノートを写して予習をすませようと頑張る者など様々だ。 ちなみに撫子は、 一応予習はした。 ―とはいっても 本文を写しただけで 訳はやっていないので 白紙に等しい。 そうこうしているうちに 撫子の番になった。 「高坏さん、これは何かなー?」 「ノートです」 「いや、それは見れば分かるから。 じゃなくて、 これは予習ノート?」 ぺらぺら、と ページをめくりながら 平井先生が信じられない物を目にするような表情で聞く。 「よく見て、先生!! ちゃんと語句調べはしたよ!」 ホラここ! と言わんばかりに見せ付ける撫子。 「語句調べたなら それを繋げて訳せばいいのに…」 「それが!ちょ、聞いて先生! それができたらやってるって!! 出来ないからこんなんなの!!」 この二人のやりとりを見て あ~、またやってるよ と思う香純なのであった。 どうやらこれも 去年から続いているらしい。
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