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「う~ん。
努力は認めてあげるから
この単元終わったらもう一回ノート見せてね。
それで今回は許してあげるから。」
苦笑いしながら
平井先生は言う。
それに対して。
「嫌です平ちゃん」
平井先生は生徒から
『平ちゃん』
の愛称で親しまれている。
が
今は授業中なので。
「平ちゃん、じゃない!!」
「いーじゃん平ちゃん。
かわいい名前だよ平ちゃん」
「高坏さん?」
先生の後ろから
何か黒いものが見える。
満面の笑みの時に見える黒いものは怖いので、そういう時はおとなしく従うのが正しい選択だ。
「分かりましたよ、平井“先生!”」
先生、
の部分を強調して
撫子は返事をする。
「よろしい」
大変満足気な先生。
先程の黒いものは
何処へ行ったのやら…。
「はい、じゃあ本文入りますがまずは読みの確認ね」
玄象という琵琶、
鬼のためにとらるること
今は昔、
村上天皇の御代(みよ)に、玄象という琵琶
にはかにうせにけり。
これは世の伝わりものにて、
いみじき公の財に…
と、平井先生は
本文の音読をし始めた。
そんな時撫子は。
眠い!
と思っていた。
本人いわく古文は
“異国の呪文にしか聞こえなくて
眠りを催促するもの”
…らしい。
現時点で意識はあるものの、うとうとしだしていて
声が耳に入ってきずらい状態だ。
そんな眠気と格闘している
撫子の気持ちをつゆ知らず
先生は音読を続ける。
「…これ奇異のことどもなり、
となむ語り伝へたるとや。」
先生が本文を読み終えた。
「はい。
読みの確認は良いかな?」
と言って撫子の方へ行く先生。
撫子は爆睡していた。
今日も格闘に負けたらしい。
「高坏さん起きて!」
先生は
撫子を起こそうと奮闘する。
最初は肩を叩くだけだったが
なかなか起きない撫子に
仕舞いには机を揺らし始めた。
その行為で
ようやく目覚める撫子。
「起きた?」
先生が撫子に聞く。
「いえ」
わざと答える撫子。
「そっか。
…じゃあ放課後残って
私と2人で古典やる?」
再び来ました黒いもの。
撫子はあまりのオーラに
畏縮気味になる。
「起きました!
起きましたから
それだけは勘弁してください平井先生っ!」
普段平井先生に
敬語を使わない撫子だが(フレンドリー過ぎるというツッコミはしたら駄目だ)
思わず敬語を使い
低い姿勢になる。
「あら残念。
この時間ずっと起きてないと
放課後居残りさせるから、ね?」
冗談で言っているのかもしれないがそんな風に聞こえない。
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