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「先生、私のことより授業は?」
真面目に受ける気更々ないのに撫子は授業の心配をする。
「…。
じゃあ本文入りまーす」
先生は少々考えた挙げ句
それもそうだ、と言わんばかりに今までの事が無かったかの様に授業を進行し始めた。
「今は昔、に関しては
皆分かるよね?」
先生が当たり前のように
さらりと聞く。
それに頷くクラス一同。
だかしかし。
「先生ー分かりませーん!」
撫子はそれすらも
分からないのであった。
「村上天皇の御代って言うのは…」
撫子はシカトされた。
「先生、私はシカトですか!?」
「村上天皇のご時世…要はその人の時代の事を指します。
ほら、顕宗(アキムネ)という笛吹きの時に堀河院の御時って言うのがあったでしょ?
あれと同じ感じ」
またまた無視された撫子。
最早、存在が空気に等しい。
「うぅ…」
少しだけ悲しくなる
撫子なのであった。
撫子が打ち拉がれている間に
少々進んでしまった様子で、
「ここの『いみじき』っていうのは、形容詞『いみじ』の活用で意味は…
高坏さん?
語句調べはしてあったはずよね?」
先生がようやく
話を撫子に振った。
まぁ、
今は昔…のくだりが無かったことになっているが。
撫子はノートをめくって
語句『いみじ』が書いてある所を探していた。
そして得意そうに言う。
「はなはだしい
という意味です先生!」
「うん、そういう意味もあるけど
他に…なかった?」
「他?」
辞書で引いて調べる撫子。
「素晴らしい、非常に?」
「そうですね。
今回は『非常に』という意味で使います」
先生がそんな事を言っている時に
撫子は辞書を引いていた。
例の『今は昔』の部分だ。
最初からそうすれば
事は済んだのだが。
「公の財にての“て”は文法的意味が断定なので覚えといてね。
…じゃあ、今日はここまで!
次回文法やるので文法書忘れずに
持ってきてください」
といい終えたと同時に
チャイムが鳴った。
起立ー、礼。
ありがとうございました。
号令がかかり挨拶をした。
「終わったー!」
酷く嬉しそうな撫子。
「高坏さん、地味に傷付くからやめてよ」
先生が撫子に話し掛ける。
「平ちゃん、さっきの無視は酷くない?傷付いた」
「ごめんごめん」
全然悪気が無さそうに先生が言う。というか寧ろ笑ってる。
「でも高坏さん辞書で調べて分かったでしょ?」
「忘れました。」
「たった2・3分前の事でしょ?」
先生が呆れる。
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