第一巻 不意にありくべからず

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6限目 情報A 「今日は自分の行きたい大学について調べて、ワードにまとめてください」 情報の杣山(ソマヤマ)先生が そう言うと同時に、キーボードを叩く音がまわりに響く。 「よし。私もやるか!」 撫子も調べ学習に没頭した。 『桃華大学』 それが撫子の目指している 大学である。 桃華大学は語学・宗教学に関して秀でており たいへん歴史ある大学だ。 それに撫子の家から近い。 問題は撫子の学力だが、 それは今直接関係が無い。 調べるのは本人の自由だ。 そうして6限目は終わり、 SHRも終わって学校生活の 一日が過ぎた。 そして香純達と別れ 帰宅をした。 が、 撫子は目を疑った。 「ちょっとお母さん、何これ?」 「あら撫子、お帰りなさい」 細身の小柄な女性の 撫子の母親―高坏葵が 中から姿を現した。 「ただいま… じゃなくてっ! 何この散らかり様」 「何、って…整理?」 葵は首を傾げながら言う。 「何で疑問… これのどこが整理!?」 そこには、足の踏み場を探すのも難しいくらい家具だの何だのが広がっていた。 「部屋の、模様替えをしようと 思ったのよ」 「それでこんなに 散らかるか普通。」 撫子の母・葵は こういう人物だ。 それに振り回されている撫子。 …ある意味苦労人である。 少ない足場をなんとか進み 自分の部屋まで行った撫子はようやく羽を伸ばす。 「ふぅー。 さて、着替えて勉強するか。」 制服を脱ぎ 部屋着になり机に向かう撫子。 教科書とノートを広げ 復習を始める。 ―――が。 ガタガタドタバタガッシャーン!! 葵が模様替えと称して やっている行為の物音が うるさすぎて 集中ができない。 「あぁ、もう!!」 撫子は立ち上がり 部屋を出る。 「あら? 撫子、どうしたの?」 机を運びながら葵が聞く。 「うるさいから ちょっと散歩行って来る。」 撫子は靴を履き外へ出る。 「行ってらっしゃ~い」 葵は陽気な声で ドアに向かって言った。 そして全ては 動き出す―
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