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石造りの部屋に、暖炉の暖かな火が揺れていた。
この部屋には、その暖炉の明かり以外、照らす物は無く、煉瓦に囲まれた小さな炎が、その存在を誇示するかのように火の粉を散らしていた。
その暖炉の前に1人の初老の男が椅子に腰掛けていた。
男は沈黙を保ちながら、ずっと燃えゆく炎を見つめており、暇になっている右手を開けては閉じるといった行為を繰り返していた。
彼はどれだけの間、こうしていたのだろうか。
それは分からないが、ただこれからも暫くはこの状態が続くことは明らかである。
そんな時にドアを叩く音が部屋に響いた。
少し間を置いた後に、男が返事することもなく、ドアが開けられた。
「またここにいらしたのですか」
ドアを開けて、部屋に入ってきたのは淡い茶髪が特徴の女性だった。
その女性は重厚なドアをゆっくり閉めて、暖炉の前にいる男の下へと歩み寄る。
そして当たり前のように男の横に敷かれた絨毯の上に座り込んだ。
しばらく女性も暖炉の炎を眺めていたが、沈黙を破った。
「今日も一日が平和でしたね。本当に絵に書いたかのような、ありふれた日常でした」
「……」
優しげな口調で話す女性に対して、男は以前口を閉じたままだ。
それでも女性は続ける。
「戦乱が集結してから既に10年の月日が経ちました。今ではあの戦乱が嘘だったかのように、人々の顔には笑顔が溢れています」
女性がそう言うと、男は暖炉を見つめるのをやめて、隣にいる女性の横顔を見た。
釣られて、女性も男の顔を見つめ返す。
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