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「ナナちゃん、6番お願いします」
「はぃ」
バレンタインの今日。
お店は馴染みの指名嬢からのチョコを期待した常連さんや
プロのお姉さんからでもいいからチョコ一つはもらいたい新規さんで
いつもの土曜よりも賑わいをみせていた。
忙しいのは良いことだけど、しかし忙しいな…
いつもより緩慢な動作で腰を上げ、控室を後にしようとする私に
そうそう、と店長が言葉を重ねた。
「新規の3人グループなんですけど、そのうちの一人が最初はナナちゃんを指名しようとしてたんですよ。まぁ他の2人がフリーで、て言ったせいで指名ではなくなったんですけどね。折角ですからその子についてあげて下さい。」
そう言って店長がモニターに映るうちの一人を指差す。
普段の私はモニターを見ない。
東京が地元ではないからバレる心配も少ないし、
下手な先入観は持ちたくない。
由花からナナへと変わる、儀式の一つ。
ただ、今回は店長に応えて一応モニターを覗く。
画像が粗くてよく分からない…
…けれど。
「…店長?」
「はいナナちゃん?」
「何か…若くないですか
(´д`;)」
店長、知ってるくせに。
私が若い男の子が苦手なの。
思わずじとーと店長を見る。
「若いですねぇ♪」
飄々としたいつもの調子でさらっと店長。
「でもご指名しようとした位ですから。大丈夫ですよ!ファイト♪ナナちゃん」
……。
完敗です、はい。
笑顔を作り、
私は一歩を踏み出した。
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